北名古屋市が導入したバスロケーションシステム「バスキャッチ」は、単なるバスの位置情報の提供にとどまらず、市民の利便性の向上や問い合わせ件数の削減、そして何よりも安全管理の強化に大きく貢献しています。今回は、このシステムの導入から運用、そして未来への展望について、北名古屋市 まちづくり推進課 反橋様、同 堀田様にお話を伺いました。
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反橋 様
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堀田 様
目次
市内循環バス「きたバス」
きたバスについて教えてください
「きたバス」では、バスロケーションシステム「バスキャッチ」を導入しており、運行中のバスの現在位置や遅延状況をリアルタイムで確認することができます。
バス停のQRコードを読み取ることで携帯端末からアクセスできるほか、市の公式ウェブサイト公式LINE等からも利用可能です。これにより、利用者はバスが来るまでの時間を有効活用でき、計画的に行動できるようになります。
「利用者の利便性」が一番の導入理由
コミュニティバスは、バス専用レーンがなく他の車と同じ道路を走るため、ダイヤ通りに運行するのが難しいという課題がありました。
日本社会は時間に厳しく、電車の運行のように分刻みで動くことを求められます。
バスも時間通りに運行したいものの、交通量や道路事情の影響を受けて遅延してしまうことがあります。
バスがなかなか来ないと、利用者は「バスが遅れているのか?それとも私が乗り過ごしてしまったのか?」と混乱してしまいますよね。
このように、行政の都合で導入を決めたのではなく、私自身がバスを利用するときに感じた体験から導入を検討しました。
システム導入に向けて、重視したポイントはありますか。
バスキャッチでは、バスの走行位置と到着予定時間が表示されます。
これにより、利用者はバスに乗るかどうかだけでなく、次の行動を計画する時間を確保できます。
例えば、「まだ遠くを走っているなら、もう少しゆっくりでいいか」といったように、自分の時間の使い方を考えることができるようになります。
バスキャッチは、利用者に「時間の使い方」という選択肢を与えてくれるのが最大のポイントだと思います。
「問い合わせがないこと」が最大の利便性向上
バスキャッチ導入後、変化はありましたか?
以前は「時刻表はどこにありますか?」「バスはどこにいますか?」といった問い合わせが頻繁にあり、その都度職員が運行会社を通じてバスの位置を確認し、市民に伝えていました。
バスロケで位置情報や到着予定が閲覧できるようになったため、そうした問い合わせは大幅に減りましたね。
「バスロケは使いやすいですか?」「便利になりましたか?」といったアンケートを取るつもりはないですが、【何も問い合わせが来ない】という状況こそが、最大の利便性向上だと捉えています。
しかし、仕事をするうちに、「バスキャッチ」というシステムがあることを知り、これはすごいと思いました。
立場は市役所の人間ですが、利用者目線で一度プライベートでバスに乗ってみたことがあったんです。そのとき「これだ!」「このシステムが欲しかったんだ!」と感動しました。
市民の行動導線にバスロケを配置。宣伝なしで自然に伸びるアクセス数
バスキャッチの利用促進のために工夫されたことはありますか。
それでも多くの人に利用されているのは、バスキャッチが利用者のニーズに直接応えている証拠だと感じています。
その理由は時刻表やバス停へのQRコード設置、市の公式LINEなど、「バスの利用者が自然に活用できる」場所にバスロケを配置しているからだと考えています。
例えば、バスに乗る人はまず時刻や行き先を調べたいと思うんです。だから路線図や時刻表、バス停を見に行く。そこにQRコードを一つ付けて、『バスの走行位置が分かります』と表示しておけば利用してみようかなと思いますよね。
他の場所にもバスキャッチへの導線は設けていますか。
当たり前のように市民が使う場所の中に組み込んでしまえば、不要に宣伝をしなくても自然と利用者が増えていきます。
逆に、大々的に広報しなくても問題ないと判断できたのは、VISHの方がきちんと使いやすいシステムを構築してくれるという絶対的な信頼があったからです。
市の広報担当やLINE配信担当など、役所内のみんながバスロケの魅力をわかってくれたから、ここまでのことができたとも思います。
バス利用者のおよそ45〜50%がバスキャッチを利用!
実際にシステムを運用する中で、バスキャッチのアクセス情報は活用されていましたか?
たとえば、バス利用者を100人と想定して、そのうち10人がバスロケを見たという記録があれば、利用率10%だと考えることができます。この数字を見ると、普段からどれくらいの人が利用しているかが把握できます。
現在、きたバスの利用者のおよそ45〜50% がバスロケを利用しているという統計が出ています。これはかなりの数です。
すごい数字ですね。どのようにしてアクセス数が伸びていったのでしょうか。
アクセス数が爆発的に伸びたきっかけは、VISHのサポートはもちろんですが、きたバスがほぼ毎年、細かくダイヤ改正を行っていることも要因かもしれません。
また、バス停で写真を撮っている人がいると、周りの人は「何だろう?」と気になりますよね。そうした利用者の行動が、結果的に宣伝になっているのだと思います。
今回の取材は北名古屋市市民活動センター「μ-base(ミューベース)」にて実施。交流スペースはもちろん、会議室や撮影スタジオを備えた“共創のまちづくり拠点”です。
位置情報がわかるから、バス事故発生時にも迅速な対応が可能に
事故が起きたら、発生位置を確認して、救急・消防に連絡、担当者自身も現場に急行する必要があります。
これまでは無線で連絡を取ってやり取りしていたところ、バスキャッチがあればバスの位置情報をすぐに確認することができます。
迅速に対応できたおかげで、消防や救急よりも私たちの方が早く現場に到着したほどでした。
あってはならないことですが、コミュニティバスも車である以上、事故は起こりえます。しかし、事故が起きた時に「バスの位置が分かりません」では通用しないのです。
バスキャッチは、利用者の利便性だけでなく、そうした安全管理にも一役買っているのだと実感しています。
事故の発生を通じて、システムの運用を工夫した点はありますか?
そこでVISHに相談したところ、乗降車数のカウントシステムを強みとする会社との連携を提案してくれました。
このシステムにより、事故発生時に「どこで事故が起きたのか?」「どちら向きのバスか?」「乗客は何人乗っているのか?」といった情報が即座に把握できるようになりました。
VISHは、自社のシステムだけでなく、他社のものも組み合わせた提案をしてくれます。「こういう組み合わせでこんなこともできますよ」と。
単なる利便性の向上だけで終わるのではなく、事故などのトラブルが起きた時にどう対応できるか、その道筋を立ててくれるのがVISHの強みです。
一人で3年かけてピン打ち…GTFS作成の苦労とVISHの対応力
バスキャッチ編集部
「導入時に必要となるGTFS(公共交通データのフォーマット)は、バス停の位置情報や路線を示す、バスロケーションシステムの肝とも言えるデータベースです。オープンデータとして活用することができ、別の地図アプリや乗り換え案内との連携も可能になります。
北名古屋市での導入当初は、反橋様が自力でGTFSを作成されました。
※バスキャッチでは導入時にGTFS作成を無償で対応しております
通常業務と並行して少しずつ進めていたので、3年ほどかかってしまい…。「バス担当として自分でやらねば」という責任感があったんですね。
しかしGTFSをシステムに反映すると、北名古屋市に立てたはずの位置情報が三重県に飛んでしまうなど苦労していたところ、VISHに相談すると「こちらで対応しますよ」と快く私たちのデータを修正してくれました。
また、他のバス停からの乗り換え時に運賃が無料になるというGTFSの共通フォーマットでは表現できない特殊な条件も、数式を使ってデータ上で構築することで解決してくれたんです。
一筋縄ではいかない大変な作業だったんですね。今、当時を振り返っていかがでしょうか。
紆余曲折はありましたが、GTFSを反映したシステムが完成した時は本当に嬉しかったです。
公開直後は、毎晩寝る前に自分でバスキャッチサイトを見ては「できた、できた」と喜んでいました。
もし、一人で作業をしていたら、きっとつまらなかったと思います。VISHと一緒だったからこそ、大変な課題でも楽しくやり遂げることができたのだと思います。
バスキャッチは「当たり前」を支えるかけがえのないパートナー
2016年のシステム導入から、現在までバスキャッチを続けて利用いただいている理由はどういった点にあるのでしょうか。
なぜバスキャッチを使い続けているのか?と聞かれたら、私は「当たり前を支えているから」と答えます。
バスロケシステムは、利用者がスマートフォンをタップすればいつでもバスの位置情報が見られる、ごく当たり前のサービスです。
しかし、その「当たり前」を毎日、当たり前のように提供し続けることは、実はとても難しいことだと思うんですね。VISHは、その難題をやり遂げている会社です。
バスキャッチは、単にバスの位置を捉えるだけでなく、その利便性によってバスを利用する人々の心をキャッチしているのだと思います!
その当たり前のサービスを、当たり前のように続けてくれるVISHの存在は、私たちにとってかけがえのないものですね。
今後の展望
今後の展望について教えてください。
通勤でご利用中の方、急いでいない方であれば「なるべく空いているバスに乗りたい」というニーズが必ずあると考えています。
というのも、自分自身、プライベートでは娘と一緒にバスに乗ることが多いんです。
乗り物が好きな娘は「きたバス」がお気に入りで、バスに乗ることそのものを楽しむために、目的地もなしにバスに乗るんです。娘と一緒だとなおさら空いているバスに乗ってゆったり移動できたらと思うことが多く…
市民の皆様の中にも、同じように感じている方は多いはずであり、力を入れて進めていきたいですね。
これは、利用者にとって利便性が向上するだけでなく、バスそのものの利用促進にもつながる取り組みになりえます。
現在、周辺の自治体と協力のうえ、尾張北部地域を網羅した広域バスを運行する愛知県の実証実験「おとなりバスなび」を開始しました。
▼富山県でも複数自治体が連携したバスロケーションシステムの導入事例があります。県内の複数の市町が「バスキャッチ」を導入しています。
私たちは、利用者の声に耳を傾け、VISHのようなパートナーの存在をそっと後押しするだけです。そして、利用者の皆さんがより快適にバスを利用できるよう、私たちは裏方として支え続けていきます。
私は新任ですが、「利用者の気持ちからスタートできる」ことを強みに、より市民の方々に寄り添った運営をしていけたらと思います。

